FACULTY OF FOREIGN LANGUAGES
外国語学部NEWS

【教員海外出張レポート③】メキシコ・マヤ人の村で聞き取り調査を実施しました

2023.09.20(水)
NEWS  
スペイン語学科 郷澤圭介准教授メキシコ・マヤ人の村で聞き取り調査を実施しました   「エクバラム遺跡:2つの政府に翻弄される現地マヤ人」 9月上旬にメキシコ南東部ユカタン
スペイン語学科 郷澤圭介准教授
メキシコ・マヤ人の村で聞き取り調査を実施しました
 
「エクバラム遺跡:2つの政府に翻弄される現地マヤ人」
9月上旬にメキシコ南東部ユカタン州へ。目的は10年ほど前から続けているマヤ人が暮らす村での聴き取り調査。その村は、ユカタン州東部主要都市バジャドリーから車で30分、州内においてチチェンイツァ遺跡やウシュマル遺跡に次ぐ規模と人気を誇るエクバラム遺跡近くにある。村出身の私の友人で、いつもお世話になっているアナスタシオさんとも同遺跡内で知り合った。エクバラム遺跡最大の魅力は、アクロポリス(大神殿)上部の見事な漆喰レリーフと、最上階から見渡す一面のジャングルである。
「人気」と書いたが、実はコロナ禍から国内各地が回復しつつある現在も観光客数が戻らず苦しんでいる。私が訪問した日も遺跡内は作業員の姿ばかりが目立ち、観光客はまばら。理由は異常に高い入場料にある。通常、メキシコ国内では有名な遺跡であっても最高で90ペソ(約780円:2023年9月現在)程度であるが、ユカタン州政府はそれに加えて独自の入場税を徴集している。エクバラム遺跡の場合、外国人が払う入場料は531ペソ(同4600円)である。内訳は連邦政府の入場税が90ペソ、州政府の入場税がなんと441ペソ(メキシコ人は211ペソ)。アナスタシオさん曰く、高すぎる入場料にSNS上で不満が飛び交い評判が下がり、観光客がこの遺跡を避けるようになったという。
さらに状況を悪化させているのが、最近地元マヤ人が独自で始めた100ペソ(同860円)の駐車場代徴集である。遺跡を含む土地は、もともとマヤ人の村の共有地である。連邦政府が遺跡を含む土地を村から「借り上げ」た際に約束されたお金はこれまで一度も払われていない。そこで業を煮やした一部の村人が、車以外でのアクセスがほぼ不可能なことを利用して勝手に遺跡入り口のゲートで徴集を始めたのである。
チケット売り場も担当するアナスタシオさんは、これまで散々観光客のクレームを聞いてきた。村人を代表して彼は、連邦政府の入場料だけで十分だと吐露する。州税も駐車場代徴集も、遺跡の評判を悪化させるばかりなので今すぐやめてほしい。駐車場代もごく一部のマヤ人の収入となるだけで、村全体の利益にはならない。いずれにせよ遺跡ビジネスで暮らしが成り立っている多くの一般の村人にとっては「百害あって一利なし」なのである。
しかし、この状況を巡り現在大きな動きが二つある。一つ目は、連邦政府が進めている新たな入り口と駐車場の建設。事態を重く見た連邦政府により、遺跡西側に連邦政府直営の入り口を設けることが決定された。この入り口を通る観光客は、州税も駐車場代も取られず90ペソのみで入場できるようになる。つまり、遺跡に「631ペソの入り口」と「90ペソの入り口」が並立するわけである。観光客がどちらを選ぶかは一目瞭然であろう。二つ目は、今年(2023年)初頭にアクロポリス東側で発見された捕虜と捕獲者とみられる人物をかたどった漆喰レリーフである。現在もこの東側では考古学者と地元村人たちが発掘修復作業中である。現政権が計画着手し建設が進んでいるマヤ地域を走る観光列車「Tren Maya(マヤ鉄道)」の開通までにはこの新しい「目玉」を整えよう、という必死さが現地から伝わってくる。いずれにせよ地元民の切なる願いは、世界中からたくさんの観光客に来てもらい、マヤの世界を心置きなく楽しんでもらうことなのである。「政治とカネ」のゴタゴタを横に置けば、日本の皆さんにイチオシの魅力的な遺跡である。(郷澤 圭介)
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エクバラム遺跡。奥に見えるのがアクロポリス。